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2018年3月15日0:12(約2252日前)

移行型ってなに?書式はあるの?老後に失敗しないための任意後見契約

相続・成年後見

任意後見契約について

任意後見契約は契約による後見制度です。認知症の発症など、実際に判断能力が低下してから本人や家族の申立てによって家庭裁判所が保護者を選任する法定後見制度に対して、任意後見制度の場合は本人(委任者)が契約締結に必要な判断能力を有している間に、将来の認知症などの判断能力低下に備えて自分の保護者となる任意後見人(受任者)を自分自身で選任します。
任意後見契約では任意後見人の選任だけではなく、その選任した任意後見人にどのような権限を与えるかまで契約によって定めることができます。
任意後見契約の効力が発動した時点では本人(委任者)は事理を弁識できない状態になっているため、何らかの事情であえて任意後見人(受任者)を選任するケースでは、誰にどのような権限を与えるかは極めて重要です。

移行型とはどんな契約なのか?

任意後見契約は、契約締結によって直ちに効力が発生するものではありません。家庭裁判所により任意後見監督人の選任が行われた時点で効力を生じます。本人はこの段階で認知症などの発症により事理が弁識できない状態のため、家庭裁判所が後見事務が適正に行われるように支援する必要があるからです。
しかし実際には昨日は事理が弁識できたが、今日からは事理を弁識できないというような割り切れるものではありません。そこで通常は本人が元気なうちから利用できる財産管理等委任契約とセットで任意後見契約を締結します。元気なうちは財産管理等委任契約によって代理権を付与し、事理を弁識できなくなったら任意後見契約にスライドします。
これを移行型と呼んでいます。元気なうちに任意後見契約を締結する場合はこの移行型での締結が基本となります。移行型では元気なうちから後見人の後見事務を見定めることができるメリットもあります。

必ず公正証書で作成する

任意後見契約はあくまでも契約であり、任意後見人に多くの代理権を与えることになるため厳格な様式が求められます。そのため必ず公証役場で公正証書にしなければなりません。公正証書には、裁判所による判決と同等の強制力があります。
公正証書作成の手順としては、まず原案を作成し公証役場に予約を取って公正証書作成のための事前打合せをします。事前打合せの内容を元に原案を修正、もしくは公証人にひな型を作ってもらうなどで内容を確認し、改めて予約の上で公証人に公正証書を作成してもらいます。
任意後見契約書の作成を行政書士に依頼した場合、事前打合せは行政書士のみが公証役場に行けば良いですが、公正証書作成のときは本人(依頼人)も公証役場に出向く必要があります。ただし本人(依頼人)の病状などの都合で公証役場に出向くことができない場合は、公証人が現地に来てくれることもあります。
また公証役場は依頼人の住所地の公証役場と決まっていますが、都道府県をまたがなければ選択可能です。

任意後見契約書の書式

任意後見契約書は、法的に書式が決まっているわけではありませんが、公証役場で任意後見契約公正証書のひな型をもらうことができますので、原案を作成するときの参考にしましょう。
実際に契約書を作成する場合はひな形の丸写しではなく、行政書士や司法書士などの専門家に契約内容と契約書の相談をするようにすることをオススメします。
任意後見契約書そのものに関しては公正証書作成のときに公証人から法的なアドバイスをいただくことができますが、行政書士等の専門家であれば、財産管理等委任契約からの移行型や死後事務委任契約、更に遺言に関する注意点など、成年後見から相続まで依頼人が不利益を被らないための包括的な提案をしてくれることでしょう。

平成○○年第○○○号

任意後見契約公正証書

本公証人は、平成○○年○○月○○日、委任者○○(以下「甲」という。)及び受任者○○(以下「乙」という。)の嘱託により、次の法律行為に関する陳述の趣旨を録取してこの証書を作成する。

被後見人(委任者)が誰で、後見人(受任者)が誰なのかしっかりと明記します。

(契約の趣旨)

第1条

甲は乙に対し、平成○○年○○月○○日、任意後見契約に関する法律(以下「任意後見契約法」という。)に基づき、同法第4条第1項所定の要件に該当する状況における甲の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務(以下「後見事務」という)を委任し、乙はこれを受任する。なお、本日以前作成の任意後見契約が存在する場合は、本契約が優先するものとする。

(契約の発効)

第2条

  1. 前条の契約(以下「本契約という」。)は、任意後見監督人が選任されたときからその効力を生ずる。
  2. 本契約の効力発生後における甲と乙との間の法律関係については、任意後見契約に関する法律及び本契約に定めるもののほか、民法の規定に従う。

(委任事務および代理権付与の範囲)

第3条

甲は、乙に対し、別紙代理権も黒く記載の後見事務(以下「本件後見事務」という。)を委任し、その事務処理のための代理権を付与する。

委任契約の範囲を包括的に定めた代理権目録を別紙で作成します。

(身上配慮の責務)

第4条

乙は、本件後見事務を処理するに当たっては、甲の意思を尊重し、かつ、甲の身上に配慮するものとし、その事務処理のため、適宜甲と面接し、ヘルパーその他日常生活援助者から甲の生活状況につき報告を求め、主治医その他医療関係者から甲の心身の状態につき説明を受けることなどにより、甲の生活状況及び健康状態の把握に努めるものとする。

(任意後見監督人選任の申立て)

第5条

本件契約締結後に、甲が任意後見契約法第4条第1項所定の要件に該当する状況に至ったときは、乙は、家庭裁判所に対し、任意後見監督人選任の申立ての手続きを行わなければならない。

この条文が任意後見契約の効力が発効されるための根拠となります。移行型の場合、この時点で委任契約は効力を失い、任意後見契約にスライドします。

(管理対象財産)

第6条

乙が本件後見事務により管理する財産は、動産、不動産を含む甲の所有する全ての財産とする。但し、財産管理着手時において、これと異なる変動があったときは、財産管理着手時における全ての財産の管理を含む。

(証書等の保管等)

第7条

  1. 乙は、甲から本件後見事務処理のために証書等の引渡しを受けたときは、その明細書を作成し、甲に交付するとともに、任意後見監督人に報告する。
  2. 乙は、本契約の効力発生後、甲以外の者が前項記載の証書等を占有所持していることを知ったときは、その者からこれらの証書等の引渡しを受けて、自らこれを保管することができる。

(本人への報告)

第8条

  1. 乙は、甲に対して本任意後見契約に関する次の事項を、1ヶ月毎に報告するものとする。
    1.乙の管理する甲の財産の状況
    2.費用の支出及び財産の使用状況
  2. 乙は、甲の請求があるときは速やかに求められた事項の報告をするものとする。

(任意後見監督人への報告)

第9条

  1. 乙は、任意後見人に対し、3ヶ月毎に、本件委任事務に関する次の事項について書面で報告する。
    1.乙の管理する甲の財産の状況
    2.甲の身上監護につき行った措置
    3.費用の支出及び財産の使用状況
  2. 乙は、任意後見監督人の請求があるときは、いつでも速やかに求められた事項の報告をするものとする。
財産管理等委任契約と異なり、任意後見契約では任意後見監督人が必ず選任され、後見人による後見事務が適正に行われているかを監督します。そのため、後見人による任意後見監督人への報告義務が明記されます。

(契約の解除)

第10条

  1. 任意後見監督人が選任される前においては、甲又は乙は、いつでも、公証人の認証を受けた書面によって、本任意後見契約を解除することができる。
  2. 任意後見監督人が選任された後においては、甲又は乙は、正当な理由があるときに限り、家庭裁判所の許可を得て、本任意後見契約を解除することができる。

(後見登記)

第11条

  1. 乙は、本任意後見契約に関する登記事項につき、変更が生じたことを知ったときは、嘱託により登記がなされる場合を除き、変更登記を申請しなければならない。
  2. 乙は、本任意後見契約が終了したときは、嘱託により登記がなされる場合を除き、終了の登記を申請しなければならない。
任意後見契約では任意後見契約が締結されたときと任意後見契約の効力が発効されたときにそれぞれ登記されます。しかし、それぞれ公証人と家庭裁判所が嘱託により登記をおこなうため被後見人(委任者)及び後見人(受任者)が登記をする必要はありません。特別な事情で契約内容の変更、または契約が終了した場合に登記の申請をするための条文となります。

(書類の作成)

第12条

乙は、本任意後見事務を処理するに祭し、以下の書類を作成する。

  1. 契約時においては、本任意後見契約書、財産目録
  2. 任意後見監督人選任時における財産目録及び証書等の保管等目録
  3. 本任意後見事務に関する会計帳簿
  4. 本任意後見事務に関する事務処理日誌
  5. 契約終了時における事務引継ぎ関係書類及び財産目録

(費用負担)

第13条

本任意後見事務に関する費用は甲の負担とし、乙はその支払いに先立って支払いを受けることができるものとする。

(報酬)

第14条

乙の報酬は無報酬とする。

親族間の後見では無報酬とすることが多いですが、行政書士等の専門家に後見を依頼する場合は報酬が発生します。
行政書士の場合は月額2万8千円程度が相場と言われていますが、この報酬額は報酬の上限であり、通常は何か依頼をした範囲で依頼内容に応じて実費プラス報酬が発生し、特に何もお願いしない月は報酬が発生しません。
ただし内訳は受任者の取り決めによりますので、報酬が発生する契約の場合はこの部分はしっかり確認しておきましょう。

(終了時の財産の引継ぎ)

第15条

  1. 本任意後見契約が、甲の死亡以外の事由によって終了した場合は、乙は、財産管理人に関する帳簿類及び証書類を、本人又は本人の法定代理人もしくは本人の指定する者に引き渡すものとする。
  2. 本任意後見契約が、甲の死亡により終了した場合は、乙は、管理財産に関する帳簿類及び証書類を甲の遺言執行者に引き渡すものとする。

(守秘義務)

第16条

乙は、本件契約に関して知り得た秘密を、正当な理由なくして第三者に漏らしてはならない。

本旨外要件

(本籍)東京都○○区○○町○丁目○番地
(住所)東京都○○区○○町○丁目○番○号
    無職
    委任者甲 ○○ ○○
         大正○年○月○日
甲は、印鑑登録証明書の提出により人違いでないことを証明させた。 (住所)東京都○○区○○町○丁目○番○号
    会社員
    受任者乙 ○○ ○○     印
         昭和○年○月○日
乙は、印鑑登録証明書の提出により人違いでないことを証明させた。

前記のとおり、委任者甲、受任者乙に読み聞かせ、かつ閲覧させたところ、各自この筆記の正確なことを承認し、署名押印する。

 委任者甲 ○○ ○○
 受任者乙 ○○ ○○
この証書は、平成○○年○○月○日、本公証人役場において、法律の規定に従って作成し、本公証人次に署名押印する。

 東京都○○区○○町○丁目○番○号  東京法務局所属  公証人 ○○ ○○

代理権目録(任意後見契約)

  1. 動産、不動産等甲の所有する全ての財産の管理、保存及び処分に関する事項(不動産の保存に関する事項を除く)
  2. 金融機関、郵便局、証券会社との全ての取引(貸し金庫取引を含む)に関する事項
  3. 各種保険契約(類似の共済契約を含む)の締結、変更、解除、保険料の支払い、保険金の受領等保険契約に関する事項
  4. 定期的な収入の受領及びこれに関する諸手続
  5. 定期的な支出を要する費用の支払い及びこれに関する諸手続
  6. 日常生活に必要な生活費の管理及び物品の購入その他の日常関連取引(契約の締結、変更、解除を含む)に関する事項
  7. 葬儀、埋葬、納骨、永代供養、年忌法要等祭祀に関する菩提寺との交渉・調整及びこれに関する費用の支払い等
  8. 登記の申請、供託の申請、住民票、戸籍謄抄本、印鑑登録証明書、登記事項証明書の請求、税金の申告・納付・還付等行政機関に対する申請、請求、申告、支払い等
  9. 医療契約、入院契約、介護契約(介護保険制度における介護サービスの利用契約、ヘルパー・家事援助者の派遣契約等を含む)、施設入居契約その他の福祉サービス利用契約等、甲の身上監護に関する契約の締結、変更、解除、費用の支払い等
  10. 要介護認定の申請及び認定に関する承認又は異議申立てに関する事項
  11. 以上の各事項に関する紛争についての訴訟代理人の選任及び解任
  12. 以上の各事項に関連する一切の事項
委任契約と同じように、想定できる法律行為を全て記入しておきます。

まとめ

後見事務は通常はご家族が代理するような法律行為の代理です。そのような大事な権限を他人に与えるわけですから、任意後見契約は多くの場合、ご家族が海外に住んでいたりご、高齢の親御さんが遠方で一人暮らししているなどのご家族が面倒を見れない特殊なケースで利用されます。
だからこそ、判断能力が失われてからもしっかり面倒を見てくれる人なのか、元気で判断能力があるうちにご本人自身の判断で信頼できる人に代理権を与える必要があります。

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