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結婚は法的には婚姻届を提出することで結婚と認められます。しかし、現代においてはパートナーシップのあり方は様々です。海外では一般的な婚姻届を提出しないペアのあり方が、日本でも認識されつつあります。
ここでは法律婚以外のパートナーシップである事実婚と内縁の違いを整理します。
法律婚以外のパートナーシップについて法的保護の可能性を行政書士に相談する場合は、自分たちの関係性に婚姻意志(婚姻届を提出しない場合も含む)があるのか、また将来的にどのような関係を望むのかなどを伝えると的確なアドバイスにつながります。
婚姻届を提出していないが、当事者に結婚しているという意識がある結婚が事実婚と呼ばれています。具体的には、現行の婚姻制度や戸籍制度に反対していたり、一夫一婦制以外の婚姻形態や夫婦別性の実践など、主体的に自分たちの意志で婚姻届を提出せずに結婚と同等の共同生活を送っている場合などがあります。内縁も含めて広義で法律婚以外の結婚を事実婚と表現する場合もあります。
一方で内縁は、法律婚として届け出たいが、何らかのやむを得ない事情により婚姻届の提出ができない男女関係であり、法律上は法律婚に関する民法上の規定が適用され、ある程度まで正式な夫婦と同等の法的保護が与えられます。そのため内縁関係と認められるために以下の成立要件を満たしている必要があります。
つまり単に一緒に住んでいるだけの同棲状態や性的関係があるだけで婚姻意思がない男女関係などは、内縁とは認められず、事実婚の中でも法的保護のために厳密に定義された男女関係が内縁といえます。
以下ではより客観的に事実婚・内縁を知るために、法律婚以外の結婚に対する日本と海外の意識の違い、日本国内での事実婚・内縁の歴史をご紹介します。
以下のデータによると日本では、「結婚はした方がよい」(56.5%)の割合が高く「結婚はしなくてもよいが、同棲はした方がよい」は 3.1%にとどまっているのに対して、欧州を見るとフランスとスウェーデンでは「結婚はしなくてもよいが、同棲はした方がよい」の割合が最も多数を占めています(フランス:25.5%、スウェーデン:36.0%)。またイギリスの場合は「結婚・同棲・恋人はいずれも、必ずしも必要ではない」が32.4%と最も高くなっています。
結婚に対する意識 | 日本 | フランス | スウェーデン | イギリス |
---|---|---|---|---|
結婚は必ずするべきだ | 9.0 | 5.9 | 4.6 | 10.6 |
結婚はしたほうがよい | 56.5 | 23.9 | 22.1 | 29.6 |
結婚はしなくてもよいが、同棲はした方がよい | 3.1 | 25.5 | 36.0 | 18.2 |
結婚・同棲はしなくてもよいが、恋人はいた方がよい | 8.8 | 23.2 | 3.9 | 7.0 |
結婚・同棲・恋人はいずれも、必ずしも必要ではない | 23.5 | 20.0 | 31.1 | 32.4 |
その他 | 21.8 | 0.4 | 1.6 | 0.4 |
わからない | 0.9 | 1.1 | 0.7 | 1.8 |
資料:内閣府「平成27年度 少子化社会に関する国際意識調査報告書」より作成
欧州で簡単に結婚をしない傾向にあるのは、結婚・離婚の制度の違いが影響していると考えられます。キリスト教国では結婚・離婚は簡単に認められるものではなく、一度結婚すれば離婚するためには必ず裁判を要するなど時間と労力を費やす必要があるためです。
しかし一方で法律婚以外のパートナーシップに対して、フランスではPACS(民事連帯契約)、スウェーデンではサムボ法(同棲法)といった婚姻以外のパートナーシップを登録する制度が設けられています。これらの制度によって社会保障・相続・財産分割・納税など結婚に準じる法的保護を受けることができます。
つまりこれらの国では事実婚が結婚の代替として機能しています。そのため事実婚のカップルから子どもが産まれることも珍しくなく、婚姻率低下と出生率上昇が反比例している国もあります。
前述の内縁の説明の通り日本でも内縁関係にはある程度の法的保護が約束されています。
これには歴史的に明治民法が届出婚主義を採用したことが関係しています。当時この届出婚主義は国民に浸透せずに、逆に届出をしない多くのパートナーが法的に保護されない内縁関係になってしまったという問題が生じました。そのためこの問題の回避策として、内縁を社会政策上とられた立法において婚姻と同じように扱うことと判例によって個別に内縁の保護を図る政策がとられました。つまり法律婚主義徹底の救済処置として内縁の保護が図られていたことになります。
しかし1980年代以降、経済成長や、女性の社会進出、社会の複雑化に伴って、夫婦別姓の実践や同性カップル、戸籍制度・婚姻制度への反発など理由は様々ですが、内縁の定義に収まらない男女(または同性)関係が認知され始めました。
そのため現在では日本でも多様化した価値観に対応した法的保護を考える必要性が出てきています。
事実婚の場合は法的には結婚と認められず、パートナーシップにおける権利・義務が曖昧な状態にあります。この問題は契約で権利・義務を明確にすることでリスク回避できます。
内縁もパートナーシップが法律で定められた内縁かどうかを判断するのは司法や行政です。自分たちが内縁と思っていても必ずしも内縁と認められるとは限りません。司法や行政に内縁関係を説明・証明しやすくする必要があります。
そのため事実婚・内縁における合意事項の証明においては事実婚契約書の作成が有効です。契約書として目に見えるカタチで残しておけば二人の関係においてはもちろん、第三者に関係性を証明するときにも有効です。
以下に事実婚・内縁それぞれで契約書作成時に抑えておきたいポイントを解説します。
事実婚の場合は、法律婚による姓の変更や扶養義務は結婚のマイナス要素で、婚姻届の提出をしないことで男女の関係を対等に保つことに主眼を置いていることがあります。
特に経済的に自立した女性などは、家庭に入るメリットがなく法律婚をしても社会保障や税制の優遇処置などの恩恵は受けられないため、事実婚を選択している場合も多いようです。
そのようなケースでは法律婚による法的保護は想定されていないため、契約によって自分たちの関係を定義して、権利・義務を明確にしておくことが懸命です。またこの場合、子どもをつくるのか、財産はどう分けるのかなど、全てが決まっているわけではないということも多いでしょう。そのため一度に一生の契約を定めた契約書を作成するのではなく、ライフステージに応じてその時々で契約書を作成するという選択も有効です。
事実婚の契約では内縁のような法的保護は受けられないため、現時点で二人の明確な合意事項があるのであれば将来のトラブル防止のために契約としてできるだけ盛り込んでおくことが重要です。
内縁の場合は自分たちの結婚意志に反して、民法の制約などで法律上婚姻の成立に障害があるという状況にあります。再婚禁止期間であったり近親者間の婚姻であったり、あるいは未成年者などで親の同意が得られないケースも考えられます。これらは法律で制限があるため婚姻の意志があっても内縁状態となってしまいます。
特記するべきケースは重婚の禁止に抵触しているケース(重婚的内縁)、つまり法律婚の配偶者がいる状態で他の相手と内縁関係にある場合です。この場合でも法律婚が実体を失っている場合は内縁関係が認められ法的保護が付与されますが、法律婚側の相手との関係性に特に注意する必要があります。相続関係などでは、贈与等の契約を結んでいても、法律婚側の相手方に権利を主張され、内縁関係が不倫であるとされてしまえば、公序良俗違反として裁判をおこされる恐れもあります。
法律婚側の相手との関係の話し合いが紛争性回避の方向で済んでいるかはしっかりと確認した上で内縁の契約を結びましょう。
また内縁と認められる場合でもすべての法律婚の規定が適用されるわけではなく,以下の規定は適用されません。
これらは別途契約で権利・義務関係をクリアにしておく必要があります。
内縁関係の契約で重要なのはパートナーシップが法律で定められた内縁であると司法や行政に認められるような契約(内縁証明書になる)であることに加えて、法律婚の規定が適用されない部分のルールの取り決めを事前に行っておくことです。
これはパートナーシップ契約書とされる場合や内縁関係契約書とされる場合もありますが、契約書のタイトルに特に重要性はなく、事実婚が始まったタイミングで将来の契約の二人の関係を契約に定めておくことに意味があります。
特に意図的に婚姻届を提出しない事実婚の場合は「内縁保護法理」の保護下に置かれないとされる見解が多数です。つまり将来的にパートナーとの関係で関係を一方的に解消されることで他方に損害が発生したり、共同生活の財産関係が曖昧なためにトラブルが発生しても家族としての法的保護がなく更なる問題に発展する可能性があります。
ある程度の法的保護が適用される内縁関係においてもトラブルの懸念はあります。例えば法律婚では、婚姻費用分担義務という別居中でも夫婦間で毎月の生活費を渡す義務がありますが、これは内縁関係にも適用されます。しかし関係が悪化して別居した時点で内縁関係が解消された場合、その後の生活費を渡す義務はない状態となってしまいます。
そのようなトラブルを事前に予測して予防することで安心して事実婚を続けるためにも、事実婚契約書の作成は重要な意味を持ちます。
以下に事実婚契約書に盛り込むべき基本事項を列挙します。
上記を基本事項として、共同生活が長期化すれば必要に応じて遺言や任意後見契約、死後事務委任契約などの契約を結ぶと良いでしょう。また事実婚契約書を含めたこれらの契約書は、公正証書にしておくことでより効果を発揮します(任意後見契約は公正証書が必須)。
ライフスタイルの変化により国内でも事実婚が着実に増えています。今後は自己決定権により事実婚というライフスタイルを選択したカップルへの法的保護を図るための新たな仕組みがつくられる可能性はあります。
しかし現在の法律は法制度が家族の基礎となる婚姻を法の規制と保護の対象として、法律婚外の関係は法的規制をしない代わりに法的保護もしないという立場をとっています。
そのような背景で事実婚契約書を作成したからといって、法律婚とまったく同様の効果があるというわけではありませんが、それに近い形を創り出すことが可能になります。また逆に事実婚を解消する場合に、離婚協議書に準じた内縁関係解消の契約書を作成することで、慰謝料や養育費等の発生に対応することもできます。
将来の二人の幸せのためにも、契約を上手に利用して、お互いが納得のいく関係を構築することが重要です。
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